プレパラートの涙

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「涙と血は、元々同じものなの」
君の独り言の癖だった。
ひっつめ髪と分厚い眼鏡の奥、そう言って笑った。
「身体が怪我して、赤い血が流れるのと同じ。涙は、心が怪我して流れた血なの」
僕を見ながら、いつもそう言って笑った。
「心の色は、目に見えないでしょう。だから心の血の色も、目に見えないの」
だとしたら、今、君の睫毛を伝って、僕の目に落ちた滴の味も、血と似てるのかな。
「……馬鹿みたい。独りで喋って」
目を細めて笑う顔は、いつも通り壊れそうに歪んで見えて。
白衣が裾をひるがえし、僕から離れた。
僕の手に乗ったプレパラートに、蒸留水に溶けた君の血が一滴。

『心の傷に色を付けたら、こんな風に見えるだろうね』
そう答えられたら、君は『馬鹿みたい』と、少しは愉しそうに笑ってくれたのかな。

それが君と共有した最後の記録だった。
君はその日で研究室を辞め、ピントの狂った僕は、翌週不燃ごみに出された。
ファンタジー
公開:18/11/03 22:50

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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