庭木

4
7

私が物心ついた頃にはすでに、その木は庭にそびえ立っていた。根元近くからぐねりと曲がった枝を四方に広げ、広い葉を茂らせて重々しい日陰を作った。祖父は念入りに枝葉を整え、祖父が亡くなったあとは父も同じように手入れを怠らなかった。虫がつかず枝に手が届きやすいため、弟や友人たちは学校が終わると木登りをして遊んだ。
私だけが、その姿を不気味に感じて近付かなかった。
父が亡くなり家長となった私はまず、大木となったその木を根元から切り落とした。幹と枝は薪にして人に譲った。
翌年、切り株から脇芽が顔を出し、あっという間に太い枝を広げた。切り落としてもまた別の切り口から新しい枝を出す。
私は造園屋に依頼して根ごと掘り出し、庭一帯をコンクリートで固めた。草花を愛でていた妻は少し不満げだったが、プランターを並べて庭用のベンチを置いたら満足した。

数年後、その庭から近い居間の床板がぐいっと持ち上がってきた。
ホラー
公開:18/11/03 18:47

ケイ( 長野 )

ショートストーリー、短編小説を書いています。
noteでも作品紹介しています。​​
​​​​​https://note.com/ksw

テーマは「本」と「旅」です。

2019年3月、ショートショートコンテスト「家族」に応募した『身寄り』がベルモニー賞を受賞しました。(旧名義)
2019年12月、渋谷TSUTAYAショートショートコンテストに応募した『スミレ』が優秀賞を受賞しました。
2020年3月、ショートショートコンテスト「節目」に応募した『誕生会』がベルモニー賞を受賞しました。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容