唇を噛む

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鬼の形相をしたその少年は真っ黒な唇をかみしめた。

疑心暗鬼に溢れるこの世界で、ドス黒い色に染まらないほうが不自然な話である。

自然体とはどこにあるというのだろうか?古今東西を奔走したあげくの果てに辿り着く先と言えば、憎しみや嫉妬の溢れる何の変哲もない灰色から乖離したこの真っ暗な場所である。

口を閉ざしていても、耳を塞いでいても、世の中の吹聴というのは、やむどころか降り続けていく一方なのである。
それが大きな原因とはいわないが、それがせっかく光を見いだした乾いた土地を干からびかせるのと関連性があり、真っ暗にしているのは当然である。

現に何人もの殉教者が彷徨い果てて、そこに無理やり押し込められて、苦悩し、最後は命と引き換えに、呼吸の方法を学ぶことになるのである。

少年の憤りが更に唇を強くかんだ。
唇が噛みちぎりられて、世の中のうみをつくったのは常識である。
その他
公開:18/11/03 20:00

神代博志( グスク )









 

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