しぃちゃん

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 娘の小学校入学を機に、地元へ帰ってきた。町の景色は変わったが、変わらないものもある。

 入学式を終えた娘が、妻に友達の話をしている。
「しぃちゃんっていうの―」
 それは、とても懐かしい名前だった。

 しぃちゃんはやせっぽちで、笑うと眼がなくなる、色黒の小さな女の子だった。しぃちゃんは、川の中洲に住んでいて、おしっこもうんちも川にしていた。野草摘みや、魚とりが上手だった。
 中洲は大水でよく沈んだけど、しぃちゃんは「息を止めてるの」と言っていた。
 教科書やノートはボロボロだったけど、すごく成績がよかった。冬でも裸足で、「寒いよ」と笑っていた。
 卒業後は会うこともなく、今まで忘れていた…

「しぃちゃんって、ちっちゃくて色黒で眼の小さな子だろ?」
「ううん。ちっちゃくて、とっても白くて、とっても眼が大きな子」

 川は暗渠になった。そして、しぃちゃんは、6年ごとに小学校に入学する。
ファンタジー
公開:18/11/02 10:00
更新:18/11/02 10:32

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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