稜線

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「ここから先は、未知の領域だよね」私は興奮して、彼を急き立てた。
立ち入り禁止の看板が立てられていた登山道は、警戒解除によって解放された。

道標なき、獣道を分け入る。

わけではなく、われ先にと押し寄せた登山愛好家たちが、声を弾ませ色とりどりの列をなし、ひらかれた登山道を進むのであった。

「なにも見えないね」
雲海が下界のすべてを呑み込み、冷たい霧が私たちの肌を濡らした。世界が吹きっさらしの白い闇に閉ざされたみたいだった。
火山岩のゴツゴツしたガレ場は、山頂へと導く三途の川のように、白い闇の中へ流れ込んでいった。

「きゃあっ」

先を行くカップルの女が、小さく悲鳴をあげた。突風が女の髪を打ち、男は笑った。
彼は体を支えていたトレッキングポールの先でカップルを指し示し、こう言った。

「ちょうど、あの辺かもしれない。僕がいなくなったのは」
震える足で、私は切り立った稜線に立ち尽くした。
ホラー
公開:18/11/02 22:59

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