勘コツ物語

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深掘られた皺額の、その老齢の工員は、いつも嗄れた声で古びた金属加工機に語りかけていた。路地細い奥まった所の小さな鉄工所。その巌のような手が、一点一様の鉄部品を図面通りに仕上げていく。勘とコツでμ単位の精度へと。
「知ってるか?コツって言うのはな、骨って書くんだ。だからお前も牛乳をしっかり飲め」
プログラムで勝手に削ってくれる自動機械を操作していると、その老工員はいつも同じ話で破顔していた。

錆び油と鉄屑の臭いに慣れてきた二度目の春に、その老工員は姿を見せなくなり、程なくして亡くなったのだと知った。
三度目の春に真新しい加工設備が搬入された。ハッと目剥いたのは、かの老工員の名がその設備に刻まれていたからで、それが遺言だったと知った。
「じーさん、今日もよろしくな」
毎度の朝礼の後で、その設備に挨拶する癖がついた。

四度目の春
その老工員の骨粉がその設備の鉄柱に混ぜられているのだと知った。
ファンタジー
公開:18/11/01 20:17
更新:18/11/01 20:23

Kato( 愛知県 )

ヘルシェイク矢野のことを考えてたりします
でも生粋の秦佐和子さん推しです

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ありがとうございます

 

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