猫の手

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「最近、忙しくて大変だっただろう。猫の手を借りる申請をしておいたのが、やっと、部長の許可が出たぞ」
 課長がキャリーバッグを持ってきた。
 中から猫の声が聞こえる。
「ありがとうございます」
「名前はソラだ」
 キャリーバッグを受けとると、猫用ルームに移動した。ドアを閉めて、ソファーに腰掛けると、キャリーバッグを開ける。
「ソラちゃん、今日はよろしくね」
 ソラは茶色のマンチカンだった。
 キャリーバッグから出ると、わたしの匂いをすんすんと嗅いだ。それから、ゆっくりと膝に乗ってきた。
 暖かい。
 なでると、毛並みがすべすべとして気持ちいい。
 肉球を触ると、ぷにゅぷにゅしている。
 怒られるかと思ったが、ごろごろ言っている。
 さすが、プロだ。
 ソラがほわーっとあくびをした。
 わたしもつられて、ほわーっとあくびをした。
 今日の仕事はソラの相手。
 そして、猫の手は休むためにある。
その他
公開:18/10/31 23:40
更新:18/11/01 21:53

田辺 ふみ

名作絵画ショートショートコンテストで「復元師」が太田忠司賞を受賞しました。
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「ショートショートの花束」8と9にものっていますので、よろしく。
 

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