防音の里山

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私が生まれ育ったのは、長野県の山奥、大きな3つの山に囲まれた小さな村だった。

地元の名家である大山さんは、人一倍大きな家に、妻と娘の3人で暮らしていた。

一人娘をたいそう可愛がった大山さんは、欲しいと言うものをなんでも買え与えた。

村人は村人で、権力者の大山さんに少しでも好かれようと毎日ニコニコ必死だった。

「歌手になりたい」
ある日、一人娘が恐ろしいことを言いだした。何を隠そう、彼女はものすごく独特なリズム感の持ち主なのである。

大山さんの家は、山の中腹にあったので、娘のよく響く声が連日遠くまでこだましていた。

あまりに個性的だったので、大山さんは3つの山すべてに、音を吸収する特殊な防音措置を施した。

素晴らしい思いやりだ!いつものように村人は笑顔で彼を褒めちぎる。

そして、恐らく一生聞くことのない、山々からの小鳥のさえずりを思い、深い深いため息をつくのである。
その他
公開:18/11/04 20:57
更新:18/11/04 22:02

tom( 神奈川 )

ゆるゆると書いてます^^自分で読んでおもしろいと思うような文章が書きたいです!よろしくお願いします!

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