働きたかった会社

お菓子屋さんになれば、毎日お菓子食べ放題。
子供なら一度は夢見るらしい。

冗談じゃない。毎日砂糖小麦粉バターと格闘。まとわり付くバニラ臭。バレンタインは白黒の拷問、クリスマスは景色すらケーキに見える、そんな生活の何が楽しい！
老舗洋菓子店の開発部に就職して８年。入社時から体重３割増。健康診断が毎年『要再検査』。好きで食べたなら諦めも付くが、はっきり言おう。
俺は甘い物が嫌いだ。
しかし嗜好と適性は別。俺の味覚と嗅覚は社内一の精度を誇り、提案商品はヒット連発。現在開発部のチーフを任されている。

『トミ屋の苺ショート、昔のが好きだったな』
『事故でレシピが消えたって。今や幻の味』

曖昧な記憶を辿って試行錯誤し、大嫌いなクリームを吐くまで舐めて。

『同じ味だ。ありがとう、俺の夢叶えてくれて』


「……嘘つきめ」
もう二度と開けない試食会。
「次こそ食わせてやるから。あと５０年待ってろ」