無言不実行社長

社長は何もしない。ただそこに座っているだけだ。
うちへ来る人はみな初めは驚くが、数日もたてば慣れて問題なく業務をこなすようになる。
いつか秘書の人に社長の人となりを聞いたけれど、よくあるフレーズで忘れた。

何も言わない何もしない。いつしか無言不実行社長と揶揄され始めたが、社長は嫌われてはいない。あの人に守られているだろうことは、みな分かっている。

その日も社長は定時に帰宅した。
「おかえりなさい。今日はどうだった？」
「ああ、実は事業部の…」
「何言ってるの。あなたは何もしなくていいのよ」
　妻の後ろから会長である義父が顔を出す。
「そうだ月島君、君はただそこにいるだけでいい。何も言わずにね」
「はい、会長。そのようにいたします」
「いい返事だ。そのまま有言実行を貫いてくれ。優秀な月島君」

――まじめで愛妻家、ご家族と社員思いの素晴らしい社長です。
秘書は常に、心からそう思っている。