モルヒネの香り
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妻が末期の癌になった時、僕はホスピスで働いていた。妻は僕のいるホスピスに入院し、僕は担当医となった。
その頃僕は同じ職場の看護師とつきあっていて、皮肉なことに彼女は妻の看護を担当することになった。
ある日、看護師と病室に行くと、妻が息をするのも苦しいと訴えた。もう長くはないと感じ、ふいに看護師と目を合わせ頷いた。視線を戻すと、妻がこちらを血走った目で凝視している。僕は関係がバレたのかと一瞬ドキリとした。
冷静を装い、痛み止めのモルヒネを注射する。それからすぐに妻は亡くなった。
しばらくして僕は、看護師の彼女と再婚をしたが、数年後に自分が妻と同じ病気で同じホスピスに入院することになるとは、運命に馬鹿にされているような気分だ。
最近、痛み止めのモルヒネの経口薬を服用すると、なぜか妻が愛用していたシャンプーの香りが漂ってくる。
そうして私は、あの時の血走った妻の目を恐ろしく思い出す。
その頃僕は同じ職場の看護師とつきあっていて、皮肉なことに彼女は妻の看護を担当することになった。
ある日、看護師と病室に行くと、妻が息をするのも苦しいと訴えた。もう長くはないと感じ、ふいに看護師と目を合わせ頷いた。視線を戻すと、妻がこちらを血走った目で凝視している。僕は関係がバレたのかと一瞬ドキリとした。
冷静を装い、痛み止めのモルヒネを注射する。それからすぐに妻は亡くなった。
しばらくして僕は、看護師の彼女と再婚をしたが、数年後に自分が妻と同じ病気で同じホスピスに入院することになるとは、運命に馬鹿にされているような気分だ。
最近、痛み止めのモルヒネの経口薬を服用すると、なぜか妻が愛用していたシャンプーの香りが漂ってくる。
そうして私は、あの時の血走った妻の目を恐ろしく思い出す。
その他
公開:18/10/31 18:48
スクー
シャンプーの匂いがするモルヒネ
人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。
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