だれの声か、だれの言葉か

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町の外れにポツンと立ったアパートの、集合ポストの前で少女はいつも待っている。
「やあこんにちは。今日はお馬さんからだよ」
男は肩から下げたバッグから馬の形に折られた手紙を差し出す。消印も差出人もない、そのくせ年端のいかない少女でも読めるように全部ひらがなで書かれた手紙だ。
「ゆうびんやさん、いつもありがとう」
「どういたしまして」
「でもね、ゆうびんやさんは私がほしいおてがみ、もってきてくれないの」
「わわ、ごめんよ。誰のお手紙を待っているのかい?」
「パパからの!」
「うーん、キミのパパには会ってないなあ。今度うさぎさんの丘を登るから、そこからぐるりと探してみるね」
「やくそく!」
無邪気に差し出される小指。男はそれに応えることなく少女の頭を撫でた。

「出せるわけ、ないじゃないか」
溢した言葉は誰の耳にも入らない。男は帽子のつばをぐっと下げ、足早にアパートをから離れていった。
その他
公開:18/10/30 23:29
更新:18/11/11 00:16

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