思い出コーヒー

僕はとあるコーヒーショップに来ている。
ここには、他の店では見かけない種類の豆が置いてある。

「やあ、準備できたよ」
真っ白の顎髭を蓄えた店主が、僕のことを呼びに来た。
店内の棚に並ぶコーヒー豆を物色していた僕は、素っ頓狂な声で
「あ、はい」
と答えた。

このショップでは、様々な人が挽いていった豆の粉末が置いてある。
挽いてからは豆の劣化が早いので、あまり長くは店に置かず、一週間ほどで本人のもとへ送られる。
店に置いてあるうちに誰かに飲んでもらえると、そのうちの何割かをお小遣いでもらえるという仕組みらしい。

その豆が少し変わっている。
メモリーズという名前。
その人が豆を挽いたときの感情や、思い出していた記憶に反応して、豆の風味が変わるのだ。


一体どんな味になるのか……

せめてあの思い出も、味わい深いコーヒーに代わってくれれば。

……僕は、コーヒーミルのハンドルに手をかけた。