1
4

60代半ばのその男の顔の全面は赤く爛れ、それは全身にまで飛び火していた。
瞼はどろりと垂れ下がっていた。
まるで、その男の目は、常に闇夜に照らし出される恐怖を見据えているようであった。
薬の乱用者のみる幻想の中の甲のある夥しい数の小昆虫達が、手足を動き回り、肌では飽き足らず、内臓にまで侵襲し、それを貪り食うのであった。
男は、全身がむず痒くなり、ありとあらゆる箇所をかきはじめた。
顔を爪でかいたせいで、赤く爛れた顔から少量の血が吹き出ていた。
内臓をかこうと思いたち、お腹周りをかく。
痩せこけた蛇腹な肋骨の向きと反対方向にかいたせいで、時折、爪が溝にはまるのであった。
男は悶え苦しみ、その場で倒れこみ、床の上で横転を繰り返しては少しでも痛みを和らげようとした。
その内、男の珍妙な行動はピタリととまった。
包丁で中骨を断ち切られた魚のように、口からは微量の息さえも漏れなくなった。
その他
公開:18/10/30 20:00

神代博志( グスク )









 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容