僕の会社は海の中

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午前10時、100%変な人と思われる格好の僕を見て妻がOKと言った。僕は10階のベランダの手摺に立ち眼下にある海に飛び込んだ。飛び込むと鞄から中型の酸素ボンベを口にあて会社に向かう。会社は20mの海底にあり20分で到着だ。満員電車の不快感や待ちくたびれる交通渋滞もない実に快適な通勤だ。今日も受付嬢のメロンちゃんが見事な長い尾ヒレを動かし笑顔で迎えてくれる。自分の席に着くと引き出しから10キロのウエイトベルトを取り出し腰に装着する。そうでないと体が浮いてしまい仕事にならない。ここでは極力それっぽい動きで相手の興味を引くことが必要だ。また遭遇に備え手話も完璧に覚える必要がある。昼食は泳いでいる魚を捕獲して生で食べる。トイレはまさに居ながらにしてすべてを水に流す。この日は遭遇できないまま退社時間になった。午後3時、仕事を終え帰宅した。出迎えた妻が僕に言った。
「人魚を捕まえる仕事って大変ね」
ファンタジー
公開:18/10/30 17:54

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