週末洗う時計

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運命の恋なんて馬鹿にしていたのに。
落とした小銭を僕と一緒に拾ってくれて、アニメみたいに指が触れ合った瞬間、僕はアニメみたいに恋に落ちた。
この指の感触を忘れないでいたい。
朝から良いことがあったと浮かれていたのかもしれない。
僕は仕事でミスをした。
上司も同僚も些細なミスだと励ましてくれたが、僕はどうしようもないくらい落ち込んでしまった。一人家に帰り、うまく眠れないまま週末を過ごした。
ふと、僕が上京するときにおばあちゃんが持たせてくれた時計を思い出す。
「この時計を洗ったら嫌なことみんな忘れられるよ。良いこともだけどね」
二年前に亡くなったおばあちゃんの声がよみがえる。
まだ試したことはない。
夕日が差し込むワンルームで、僕は時計と向き合ったまま動けないでいた。
月曜日はすぐそこだ。
その他
公開:18/10/29 23:20

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