親父のトマト

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「親父が作るトマトは美味しくないんだよ。俺はさくらんぼみたいに甘いのが好きなんだ。」
実家はミニトマト農家で、親父はトマト作りの達人だった。
けれど、俺は後を継ぎたくなくて、思ってもいないことをつい口走ってしまった。

商社に就職して5年がたった頃、親父は倒れて、帰らぬ人となった。

その頃、何の因果か、俺はデパート向けのトマトを扱うことになった。けれど、どれも親父のトマトより美味いとは思えず、納得できる仕入先の見つけられずにいた。

そんなとき、生前の親父からトマト作りを教わったという生産者を母から紹介された。
「親父のトマトの味だ。けれど、もっと甘い。」

1口目を口に入れた瞬間、思わず言葉が漏れた。

「〇〇さんが栽培方法を開発したんです。巷では“チェリートマト“って言われています。」

一面に実った真赤の果実が揺れて、”ざまあみろ”って笑っている。


2口目は少ししょっぱかった。
青春
公開:18/10/28 21:14

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