金色のソロ・パート~フラワーネットワーク⑤

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『s’』の看板を裏返しかけたところで、ドアに影が差す。
「ら…衣笠(きぬがさ)さん」
「蘭で良いわ、美咲君。相変わらず真面目ね」
衣笠蘭。高校まで一緒に通った幼馴染。当時は『高雄蘭』だった。
「髪型変えたのね。似合う」
短く刈った頭を掻く。童顔を隠すのは諦めた。丁度切りもつけたかった。
「1周忌のお花、ありがとう」
「行けなくて悪い。……会うの、久々だな」
彼女の結婚から1年、お父さんの他界を喪中はがきで知った。俺は多忙に託け、結婚式も葬儀も出なかった。
「きっと向こうで、お母さんと踊ってる。こんな風に」
細い手が群雀蘭(オンシジューム)を1本選ぶ。お父さんの好きだった花。
「綺麗。……あら、2本?」
「パートナー無しじゃ淋しいだろ」
「さすが親友。あの人と同じ台詞」
リップを引いた唇が微笑い、金の雀を連れて駅へ向かう。

「俺が教えたんだよ、蘭」
立候補するのも、悔しいけどその時諦めた。
青春
公開:18/10/28 19:08
更新:19/03/03 18:42

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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