ヨイガシの夜

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「戸草ァ。人気モンやのぉ」
 世話役という腕章の男が、子供に囲まれている男に言った。酒の匂いが広がる。子供たちは、
「臭か。おいちゃんまた呑んじゅうな」
 と、世話役に飛びつく。
「今年は子供が多いな。お前も戻って。村長も安心だな」
 戸草と呼ばれた男は、子供に揉みくちゃにされながら答えた。世話役は唾を吐き捨て、「横着モンが」と怒鳴った。
「サッタモンがなんぞあるかよ」
 世話役の言葉に戸草は寂しく笑った。世話役は顔を顰め、引き毟るように法被を脱いだ。
 背中を彩る大輪の花の彫り物が懐中電灯に浮かび上がる。
「あっ出た。おいちゃんのお花が出た」
「お花また増えとっと。六つ咲いとー」
「おおよ。わしの花は餓鬼の血ば吸うてでかなるんぞ」
「嘘ぞー」
 一団はお社へ移動していく。
 居残った戸草は、何も知らぬ子供達と全てを知りながら世話役に徹する男とを見送った。
 五年に一度のヨイガシが始まる。
その他
公開:18/10/28 11:17
更新:18/10/28 11:39

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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