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私は鉄柵越しの彼を見据えた。
「脱獄王のお前も、これで終わりだ」
「そのようですね」
やれやれといった風に首を振った。

「今までどうやって脱獄して来たのか教えてくれないか」
「いいですよ。簡単なことです」
「ほう」
「『定義』を変えるんです」
「定義?」

「今はこちらが塀の中。そちらが塀の外」
「ふむ」
「それを逆にするだけです。こちらが塀の外。そちらが塀の中」
「それで脱獄というのか? 馬鹿馬鹿しい」

「塀の中にいる方が犯罪者ということになります」
「定義を変えれば私が犯罪者というわけか」
「そうです。犯罪者のあなたが、なぜそれを持っているのですか」
彼は私の腰にある鍵を指差した。

たしかに、私はなぜこれを持っているんだろう。
「あなたが持つべきものじゃない。こちらに渡しなさい」
言われるがまま、彼にそれを手渡す。

塀の中の私は、遠ざかっていく彼の背中をただ見つめていた――
ホラー
公開:18/10/28 10:01

UBEBE

おっさんになりましたが、夢は追い続けます

「小説は短く、人生は永く」

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