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 人攫いの風貌をしている。
と、女学生は踊り場の鏡に映る自分をみて思う。
 背後には、朝と夕とで段数が変わる階段が映っていて、その階段をのぼった先の防火扉は、厳重に戸締りされている。その向こうは、学校の支配の届かない場所だ。
 ポケットのなかで鍵束をジャラジャラと弄ぶ。
 今の私は、国際指名手配犯で、世界中を逃亡しているのだと思い込んでみる。

 宿は湖畔にあって、薄暮にスライスされた峰の稜線に、牧童が羊を追う姿が見える。
 牧童は山で少女に出会う。そして、その少女は、ずっと昔の自分なのだと空想し、その時は、みんなが優しかった、と思う。
 少女は風を受けて浮かんでしまいそうになるのが恥ずかしくて、地面に靴底を擦り付けて歩く癖があった。
 牧童はきっと、少女だった私のことが好きだったのに違いない。

 彼女は踊り場の姿見の中に繰り広げられる、誰の夢想かも知れない思いに、心地よく囚われていた。
ファンタジー
公開:18/10/26 19:47
更新:18/10/26 19:49

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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