ふたつの海でねむい

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漂流して3日が過ぎた。
一睡もせずに船の修理にあたったがもうどうにもならない。処女航海でこんな目にあうとは思わなかった。認識の甘さ。運の悪さ。自分を呪ったところで船は直らない。
電源を失い、燃料も尽きた。食料と水も残りわずかだ。自力航行が無理なら漂流するしかない。
疲れ果てた私は操舵室で意識を失ったように眠った。
どれだけの時が過ぎただろう。船が軋む音に目が覚めた私は、甲板でその景色に絶望した。
船は見渡す限りの流氷に囲まれて、もはや漂流すらできない。

「くそまずいんだよ!」
かつて私はラーメン屋だった。
客に罵倒された日のことを今でも夢にみる。
ラーメンに悩み、味を模索した日々。私は深夜の厨房で意識を失ったように眠った。
私の船はラーメンスープの海を漂っている。陽が落ちると豚の脂が流氷のように冷めて、もはや漂流すらできない。
船が軋む音で目が覚めた私は。

やべ、ランチ営業の時間だ。
公開:18/10/26 12:52

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