詩人ワタナベノボル(仮)の誕生

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 黒い制服の学生達は、ポケットから虫眼鏡を取り出して、砂漠の太陽光をワタナベノボルの裸体上に集めることに熱中し始めていた。
 透き通ったCUBE内で逃れる術の無いまま、ワタナベノボルは自分を炙り殺そうとする群集を見た。彼らはみな、無邪気な残酷さで笑っていた。 
 ガラスの箱の上面の、最も良い場所に陣取った白衣の男は、這い上ってくる黒い制服の学生達を蹴散らしながら、必死で、虫眼鏡を操っていた。
 ワタナベノボルは、ガラスに映る自分の顔を見た。それは、憔悴しきった半透明で、黒い群集の全ての金釦の上に歪んで喘いでいた。

「俺の詩に意味はあったか…?」

 この時、ワタナベノボルの体内に、このガラスの密室よりも、焼かれている肌よりも、激しい熱情が込み上げてきた。
 外では、白衣の男が、引き摺り下ろされ、袋叩きにされていた。黒い群集はみな笑っていた。ワタナベノボル(仮)も同じように笑っていた。
青春
公開:18/10/26 12:13
更新:18/10/26 12:45

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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