潮汐のカウンター

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その店は、月と太陽が両極に浮かぶ夜の海に、ひっそりと開くという。

雑誌の懸賞で招待券が当たった私は、指定された日時にその海を訪れた。
月と太陽が同時に、なんてあるわけないと思っていたけれど、空を見上げれば、どちらもが明々と浮かんでいた。
「いらっしゃい。さあ乗った」
イメージと少し違うくだけた感じのおじいさんに導かれて船に乗れば、ぐっと海が浅くなる。
月と太陽それぞれの引力で海が持ち上がると、挟まれた海はつっぱり、人がおりられるようになるという。
そうしてやってきた海の真ん中、おじいさんがくるりと船を返すと、船は小料理屋のカウンターのような台へと姿を変えた。
足元は夜なのに明るく、たくさんの珊瑚や泳ぐ魚が見える。
きらきらと輝く海中に目を奪われているうち、いつのまにか出されていた熱燗は、すっかりぬるくなっていた。
「みなさんそうなんですよ」
おじいさんが笑うと、足元で小さな魚が跳ねた。
ファンタジー
公開:18/10/27 13:59
更新:18/10/28 19:40
スクー 引き潮ぬる燗

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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