エレベーター(爪先の曇り)

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 エレベーターのボタンを押して、壁面のカメラモニターを確認する。箱は無人のまま降りてくる。
 市子は、この青白い映像を見るたびに、そこに自分が乗っている姿を誰かが監視しているのかもしれないと思い、ぞっとする。俯いて靴の爪先の曇りを見つめる。
 チンと音がしてエレベーターの扉が開く。
 「失敬」
 目の前を、パーカーを着た、見たことのない男が通り過ぎた。
「無人だったはずだけど…」
 市子は半身を伸ばして、壁面のモニターを仰ぎ見る。
 扉が閉まりかけ、ガツンと肘を打つ。痛い。嫌悪感が高まる。怒りを持て余しつつ、5のボタンを押す。扉が閉まり、彼女はモニターの中の人となる。
「居心地悪い感じなんだよね。つまり」
 市子は訝しげにカメラを見上げ、手を振ってみる。
 3階でエレベーターが止まった。市子はバツが悪い。
 壁に背をつけて、神妙に俯いていると、爪先の曇りにぼんやりと、パーカーの男が映った。
ホラー
公開:18/10/27 09:53

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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