思いやり銀行

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お客様から通帳を受け取って、小さな機械をカウンターの上へ差し出す。
タブレットのようになっている表面のパネルへお客様が右手を載せると、ぱらぱらとデジタル数字が進んでいった。
二百思いやり。
それがお客様の、本日の預入数だ。

私が働く思いやり銀行は、お金ではなく思いやりの預入と貸付を行っている。
思いやりに余裕のあるときに預けておいて、足りなくなってくると預けた分から引き出し、補充することができる。
福利厚生のひとつで同僚も上司も高利率で思いやりを預入しているので、みんな余裕があってハラスメントも皆無だ。貸付のお客様が来たときは横暴で大変だけど、それも融資が始まるまでの辛抱で、二度目の来店時には別人のようになる。

誰かの預けた思いやりが、人知れず別の誰かを支える思いやりになっていく。

そうして窓口で出会ったお客様と、私は来月結婚する。
年収は普通だけど、思いやり資産家の優しい人だ。
その他
公開:18/10/27 07:52
更新:18/10/27 08:28

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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