極刑

「奥さん。手からナイフを放してください」
定年退職まであと三日の河西刑事が主婦に説得した。
「奥さんの気持ちはわかりますよ。あなたの息子さんを殺害した犯人を目の前にして、その衝動をおさえられないのはわかります。でも、息子さんはそれをのぞんでいるでしょうか？」
河西は主婦に質問を投げかけた。
主婦はその場に泣き崩れた。
犯人は尻餅をつきながら、後ずさりをした。
「俺はまだ長生きする。あんたの息子さんは本当に残念だった。たまたま、犯罪現場に居合わせただけなんだよ。本当に残念だったと思うよ」
「黙れ！」
河西は犯人に怒鳴りつけた。
「何が残念だっただ。おまえが殺害した人物はこの人のたった一人の息子さんなんだぞ」
河西は犯人の胸ぐらをつかんだ。
犯人は河西に顔を合わせないようとはしなかった。
「おまえを法律で裁いてやるからな。極刑は逃れられないだろ」