壁に耳目あり、床に 。
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妻が昔貼った、寝室の壁紙。
桃色の濃淡で不規則に重なる花。遠目には水彩を適当に塗りたくった悪戯にも見える。
正確にはいつ頃だろう。日焼けて肌味掛かったそれが、胸を苛む様になったのは。
――ふと、床の木目に横たわる、髪。
また落ちている。恐らく湿気て剥がれたのだ。
ず、、っと、床の際から壁を這い、天井に到る頭ひとつ、下。
はら。黒い髪が腐食した肉色からひとすじ抜けた。
無造作に複製された、眼。鼻。耳。冷笑。嘲笑。哄笑。花弁の蕾の葉の間をびっしり埋め、四角く切られた視界を無言で彩る。
顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。
また落ちる。輪を描く髪を屑籠へ。
二十年以上。耐えて耐えて耐え続けた環視の地獄を、妻は遂に理解せぬまま逝った。
屑籠にとぐろを巻く、千とも万ともつかぬ黒。
めくれた紙の裏、濁った眼が静かに睨む。
また、糊を買って来なければ。
桃色の濃淡で不規則に重なる花。遠目には水彩を適当に塗りたくった悪戯にも見える。
正確にはいつ頃だろう。日焼けて肌味掛かったそれが、胸を苛む様になったのは。
――ふと、床の木目に横たわる、髪。
また落ちている。恐らく湿気て剥がれたのだ。
ず、、っと、床の際から壁を這い、天井に到る頭ひとつ、下。
はら。黒い髪が腐食した肉色からひとすじ抜けた。
無造作に複製された、眼。鼻。耳。冷笑。嘲笑。哄笑。花弁の蕾の葉の間をびっしり埋め、四角く切られた視界を無言で彩る。
顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。顔。
また落ちる。輪を描く髪を屑籠へ。
二十年以上。耐えて耐えて耐え続けた環視の地獄を、妻は遂に理解せぬまま逝った。
屑籠にとぐろを巻く、千とも万ともつかぬ黒。
めくれた紙の裏、濁った眼が静かに睨む。
また、糊を買って来なければ。
ホラー
公開:18/10/25 21:58
こちらは新出既出さん×誰かさん
のコメントの提供で
創樹がお送りいたしました
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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