初恋キャンディー

売り切れ続出で都内ではいまだ滅多に見かけない初恋キャンディーを、地元の友人宅で初めて目にした。
「ただの白い飴だな」缶を傾けると、ビー玉大の飴がからんと音を鳴らす。「本当に舐める人の初恋の味がするのか？」
「楽しみね」
大人四人が目を瞑り、静かに舌の上で味を辿る。五歳同士すぐに意気投合した娘と友人の息子の話し声が、少し遠くなる。
「あっ」
瞼の裏に少女の顔が浮かんだ。ファミレスのドリンクバーで友人が混ぜた飲み物はたしかにこんな味だった。むせた俺の背中を彼女の掌が優しく撫でたあの瞬間だ、俺が恋を知ったのは。
「このあめ、おみかんだ！」
いつのまにかそばに立っていた子供たちの片頬がぷくりと膨らんでいる。
「ね、おいしいねえ」
ふたりが先程までいたテーブルの上には、小さな手で不器用に剥かれた蜜柑の皮が残されている。
蜜柑味の意味することに気付いた俺は寂しさをおぼえながら、そっと娘の頭を撫でた。