九十九折のバス停の前

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 僕は一抹の不安を拭えずにいた。「そこらじゅうに温泉宿がある」とガイドには記載されていた。だが、それらしい建物は一件も見あたらなかった。もはや、ここが何処なのかすら曖昧で、持参したガイドブックが、この土地のものなのかどうかさえ、不確かだった。
 九十九折の先にバス停が見えた。「遭難」という言葉に押しつぶされそうになっていた僕は、途端に決まりが悪かった。戻ってきた日差しのために、一面の石畳から蒸気が立ちのぼり、杉木立を揺らめかしている。鼻血が出そうな予感がした。だが僕は、既にいたる所から血を流しているのだと思った。そうして、僕の行く先々には、血が点々と滴っているのだと思った。それとも、血の痕跡を求めて僕は旅をしていたのだろうか?
 バス停は、ただそこにあるだけだった。
 錆びたバス停の曲がった時刻表示の一点が、木漏れ日を捉えて目の眩むような光を放った。僕はこんな光を見たことがある、と思った。
青春
公開:18/10/24 11:11

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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