秋の金平糖

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コツンと音を立て落ちたのは金平糖だった。それまで女の子は自分を小さく無力に感じ、塵のように消えて無くなりたいと思っていた。

女の子の名は瑞季。先日、2年付き合った恋人と別れた。仕事を終えて家に帰ると心がぽっかり寂しくて、虚無の中でどこにも行けないようだった。夜が長かった。

金平糖は女の子がぱちくりしている間に、首をかしげるように体を傾け「食べて」と言った。白く尖った粒は口のなかで食むと甘く弾けた。その甘さはじんわりして、勝手に涙が出てきた。

金平糖はまた現れ、自分は秋を手助けする使者だと名乗った。秋に心が不安定になる人達を助けるのだと。君の場合は特別だよ、と白い粒は言った。それ自身も悲しみを背負っているようだった。

泣きたい時に現れる金平糖。共に過ごすうち、季節はゆっくりと確かに過ぎていった。

冬になり、金平糖は雪に溶け二度と現れなかった。女の子は瑞季に戻った。もう大丈夫だった。
その他
公開:18/10/19 17:44
特に名前に引っかけはありません

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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