江戸物情裁判 簪殺害篇

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その日の裁判は簪殺害事件についてだった。
被告の髷は好い仲であった簪の殺害関与に否認を続けていた。彼は取り調べの疲れも見せず、締まった姿で仁王立ちしている。
「俺ァあの女ととうに終わってる。こんな裁判なんざ無意味さ」
「静粛に。証人喚問をします」
裁判官の声で法廷に入ってきたのは、髷や簪の同僚である櫛だった。髷は安心し、勝利を確信した。自分と櫛は旧知の仲だ。
櫛は真っ直ぐな出で立ちで言う。
「ああ、間違いなく、髷さんが犯人です。いわゆる痴情の縺れってやつです。懇意にしていた簪さんが髪紐の野郎に浮ついちまったんでさァ」
これに髷は驚いた。慌てふためき、髪を振り乱して怒鳴る。
「櫛! 俺を裏切るのか!」
櫛は綺麗な歯並びで言った。
「申し訳ありませんねェ髷さん。私はツゲグシですんで」
法廷を去る櫛の背を見送りながら、先程までの威勢はどこへやら、残された髷は項垂れてすっかり形無しとなっていた。
その他
公開:18/10/20 01:30
更新:18/10/20 09:34

ハナヅキアキ

生まれ変わったらジンベエザメになりたい。
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使用写真はすべて自分で撮影しています。

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