おふくろの味

母さんが亡くなって5年。
母さんの味が恋しくなった。

「おふくろの味パウダー」を買ってしまったのは、きっと心が弱っていたから。会社の帰り道、ぼくは思いつくだけの「おふくろの味」、つまりは定番のカレーや卵焼きや肉じゃがを総菜コーナーで買ってパウダーを振りかけた。

カレー。美味しいけど、これじゃない。
卵焼き。違う。
肉じゃが。だんだん、舌がわからなくなってきた。

じゃあ、豚汁か。 売ってないので自分で作ってみる。

母の豚汁を想像する。人参とごぼうはささがきで、大根は銀杏のかたち。そうそう、じゃがいもと玉ねぎを四つ切りにして、角が崩れるまで煮込むんだ。たっぷりの千切り生姜も入れていたっけ。そりゃあったまるわけだ…
つい、涙がこぼれた。野菜のかたち、母の手際。覚えているんだ。ぼくの手が、母の姿を。

できあがった豚汁は、パウダーをいれずとも、紛れもなく母の味だった。