自走ネジの背中

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町工場で新人職人が扱う機械には、一つだけ妙な部品が組み込まれていた。一見するとただの小さなボルトだが、先輩職人たちはそれを「自走ネジ」と呼んだ。

自走ネジは、新人が失敗しそうになると勝手にキュッと締まり、ミスを未然に防いでくれる。だが、ネジに頼ってばかりの若手はいつまで経っても「自分の手で回した」という感覚を持てず、自信を失っていった。

「ミスを恐れて止まるな。責任は俺が持つから、一回ネジを外して回してみろ」

ある日、指導係の男が若手にそう告げた。周りのベテランは「甘い」と眉をひそめたが、男は笑ってネジを外した。

ネジの補助を失った若手の指先は震えたが、背中を支える男の視線を感じ、自分の意志で力を込めた。カチリと音が鳴り、パーツが見事に噛み合う。

ふと足元を見ると、外された自走ネジがカタカタと自ら走り出し、隣の新人デスクへと向かっていた。背中を見せるのは、人間だけではないらしい。
その他
公開:26/11/01 22:50
ショートショート 職人 自立 育成 ものづくり

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