若さか、それとも

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「らっしゃい」
 食通の男は鮨屋に入った。若い職人の前にだけ客がつき、白髪の店主らしい男は暇そうだ。
「おまかせで」
 店主の前に座っておしぼりで手を拭く。
「よろしいんですか? 若い職人でなくて」
 店主の質問の意味がわからない。
「評判をご存知ありませんか?」
「先入観を持ちたくないので情報は入れないことにしてるんだ」
 店主がサッと握った鮨を出す。
「ヒラメです」
 透き通った白が美しい。シャリはふっくらしている。
「いい腕だね。……さっきの若いのでなくていいのかっていうのはどういう意味なんだい?」
「うちの鮨を食べると、職人の歳に近づくんですよ。ほら」
 若い職人の鮨を食べるにつれ、隣の中年女性の皺もシミも減っていく。
「今からでも、若いのに握らせますよ」
 鮨に伸ばそうとした男の手が止まる。店主の顔には深い皺がある。自分より、ずっと歳上だ。
 だが、目の前のヒラメは美しかった。
ファンタジー
公開:26/09/28 23:49
若いお寿司

田辺 ふみ

名作絵画ショートショートコンテストで「復元師」が太田忠司賞を受賞しました。
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