オーディション

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閑静な住宅街の道に、その突起はあった。
歩道から、金属の丸い棒が二センチほど顔を出している。
昨日までは確かになかった。
通勤途中の私は、立ち止まってそれを眺めた。
「何だ…」
足先で軽く押してみるが、びくともしない。
まるで自分の存在を誇示するかのように、冷たく光っている。
明け方、酔った女がヒールをぶつけて折り、大声で笑う。
ランニング中の男がつまずき、横の芝生に滑り込んだ。
鼻先を近づけた犬が、反射した光に驚いて、勢いよく逃げた。
やがて、突起は不可思議な存在へと昇華した。
並んで写真を撮る者、両手を合わせて拝む者まで現れる。
専門家は、哲学めいた解説を延々と語っている。

一方、住宅街を見下ろせる丘の上。
男が双眼鏡を構え、突起を見つめている。
「ここもダメか…。早く転び役を見つけないと」
ケースには、同じ形の金属棒が整然と並んでいた。
おわり
その他
公開:26/04/23 21:57
寓話 ブラック ズレ 風刺

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