臨終看護師

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私は臨終看護師。仕事は単純だ。
臨終医の後ろをついて歩き、遺族の待つ部屋に入る。
そして、臨終医が「御臨終です」と告げたあと、
目を伏せ、軽く頭を下げる。
これが私の仕事。
そこに、ご遺体への敬意など必要ない。
それで、終わり。
先日、臨終医がペンライトを忘れた。
とっさに彼は胸元から万年筆を取り出し、目の上で振り、ごまかした。
私は気づいていないふりをした。
臨終看護師としてのたしなみだ。
この仕事は女優に似ている。
病室は舞台。
何も書いていないバインダーは小道具。
セリフはなくても、存在感だけで観客
――ここでは遺族だが――を魅了する。
最近、臨終医をモデルにしたドラマが放送された。
しかし、臨終看護師の姿はなかった。
残念な気持ちはない。その方がいい。
ある日、目の前で臨終医が倒れた。
私は慌てない。
何もしない。
それが美学だ。
そして彼は、そのまま旅立った。
おわり
その他
公開:26/04/18 19:29
寓話 ズレ ブラック 風刺

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