さよなら、良い人生を

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車を走らせて五十分。割と有名な観光地。平日の疲れを残したまま、妻に引きずられるようにして歩いた。
「向こうに鯉がいるんだって。行こう!」
鯉なんて正直どうでもいいが、断れば妻が不機嫌になるのは目に見えている。
たどり着いた池。足元には濃いねずみ色の鯉が大勢集まり、口を開けてアピールし始めた。餌は、来た道を戻らないと買えないようだった。
「俺、買って来るよ」と言えば、「うん、お願い」と返ってくる。定期の流れ。
ため息はしまい、ぶらぶらと売店に向かう。そこで昔の彼女に再会した。
「もしかしてサトー君?」
声をかけてきた彼女の隣には俺の知らない男。たぶん伴侶。
思い出せないふりをしてから、「え、スズキ?」と問い返し、二言三言交わして別れた。
二十年ぶりに会うと感慨深いものがある。どちらもすっかり相応の年輪を刻んでいた。
鯉の餌が入った紙コップを持った俺は、苦笑いしながら妻の元に帰った。
その他
公開:26/04/12 11:29
更新:26/04/12 11:42

いちいおと

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintやAIで作成しています。

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