敷居の減り

0
1

むかしむかし、
人を疑わぬ若者がおりました。

旅の者に道を譲り、
荷を少し持ち、
茶を分けるたび、
村では
「渡る世間に鬼はない」
と言われておりました。

そこへ黒い羽織の男が現れ、
若者の戸口を見て申しました。
「ようできた言葉でございます。
鬼はおらずとも、
空手では帰らぬものです」

若者はその言葉を胸に入れ、
頼まれごとを断らず、
貸したものに名も付けなくなりました。

蓑、鍬、戸口の桶。
借りた者はみな礼を言い、
返す日の話だけ
きれいに置いて帰りました。

冬の朝、
若者が戸を開けると、
敷居だけが妙に磨り減っておりました。
人の出入りは絶えなかったのに、
もう自分の家へ入る音だけが
ひどくよそよそしく聞こえました。
ファンタジー
公開:26/04/17 12:00
更新:26/04/11 04:43

問い屋

問いを描くショートショートを書いています。
 
その違和感を、
まだ持ったままの人へ。
 
問いの続きを、ここにまとめています。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容