残った宛名

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むかしむかし、
縁談をふたつ同時にもらった若者がおりました。

ひとりは米問屋の娘、
ひとりは染物屋の娘。
村では
「欲張らず、ひとつに決めねば」
と言われておりました。

そこへ黒い羽織の男が現れ、
「二兎を追う者は一兎をも得ず」
と申しました。

若者は米問屋への返事を先に書き、
断りの文には
染物屋の娘の名だけ記しました。

その夜、
米問屋から使いが来ました。
娘は町の蔵持ちへ嫁ぐことになった、
とのことでございました。

若者が文を開くと、
灯の下には
宛名だけが濃く残っておりました。
庭は静かなのに、
紙の端だけが
しばらくめくれておりました。
ファンタジー
公開:26/04/16 12:00
更新:26/04/16 12:24

問い屋

問いを描くショートショートを書いています。
 
その違和感を、
まだ持ったままの人へ。
 
問いの続きを、ここにまとめています。

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