最終灯芯

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瘴霧の谷に、
旅人を癒す灯火塔があった。

傷ついた者を寝かせ、
熱を鎮め、
夜明け前の歯ぎしりを受ける。

継承帳は、
代ごとに一冊ずつ増えた。

塔に入った者は
長く保たなかった。

ひとり消えるたび、
その者の役目は
下の者へ静かに移された。

夜半の見回り。
口移しの薬。
眠れぬ者の夢受け。
死者の名の記録。

最後に残ったのは、
いちばん若い彼女だった。

その冬、
塔の灯は前より明るく燃えた。
ふもとでは快癒の札が増え、
村ではそれを
灯の当たり年と呼んだ。

春になっても、
彼女は降りてこなかった。

最上階の燭台の根元には
白い薄片がいくつも沈み、
束になった黒い芯が
まだ燃えていた。

――最終灯芯、充当済。
ホラー
公開:26/04/08 22:00
更新:26/04/08 05:52

問い屋

問いを描くショートショートを書いています。
 
その違和感を、
まだ持ったままの人へ。
 
問いの続きを、ここにまとめています。

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