蜘蛛の行ひ

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 「かわひらこ、ひらり渡りやって来る」
 蜘蛛は蚕に、胡蝶の訪れを知らせます。
 「いかにその身を留めましょう」
 通り過ぎ行く姿を、見上げるばかりであった蚕は、恋焦がれるあまり蜘蛛にこう尋ねました。
 「巣をかけ、搦め捕えるが良い」
 蜘蛛は吐き出す糸で、器用に網を張って見せます。
 朝日に輝くその巣を見て、蚕は自らも糸を吐きました。
 けれど蚕の糸は、己の身に纏わり付くばかり。とうとう全身を包み込んで、白い繭となってしまいました。
 それから十日。
 繭は破れ、蚕は翅を備えて再び朝を迎えました。
 「かわひらこ、ひらり渡りやって来る」
 蜘蛛は蚕に、胡蝶の訪れを知らせます。
 「これで逢いに行けるでしょう」
 蚕は翅を震わせます。
 震わせて。
 震わせるのに。
 蚕は空を飛べません。
 胡蝶は通り過ぎました。
 涙を流し、見上げるばかりの蚕を、蜘蛛はただ、愛おしそうに見守っています。
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公開:26/04/05 23:32

鹿野 秋乃

毒にも薬にもならないお話ばかりです。

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