1
3

解雇通知を出した時、彼は少し笑ったように見えた。
「わかりました。長いあいだ、お世話になりました」
頭を下げ、ふたたび顔をあげた彼は、いつも通りの何を考えているのかわからない無表情に戻っていた。
私は申し訳なさを装って言った。
「悪いね。会社の方針で、作業量の少ない人間から削減することになってさ。君が会社に貢献できてないという意味ではないんだけどね」
彼は誰とも馴染まず、黙々と作業するような男だった。チームワークに向いていないのだ。リストラ対象として真っ先に名前が挙がったのも納得がゆく。
「ところで、引き継ぎの資料は必要ですか?」
思いがけない提案を、私は薄ら笑いで断った。
今思えば、ずいぶんひどいことをしたものだ。

彼の去った後、間もなく明らかになったのは、業務の効率化をはかるために作られたシステムが存在していたことだった。
会社の歯車に良質な油を差していたのは彼だったのである。
その他
公開:26/04/09 21:16

いちいおと

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintやAIで作成しています。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容