散らない桜

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 桜の花が散らないようにする薬が発明された。
 桜の名所の公園では、こぞってその薬を買い、木に向けて噴霧した。来園者が増えると、園内のカフェや売店が儲かるからだ。
 強い雨風の日が何度かあったが花は散らず、五月になっても満開のままで、週末になると、人々は桜の木の下で浮かれ騒いだ。
 夏の陽光の中で桜は咲き続け、秋には紅葉とともに風景を彩り、冬には桜の花の上に雪が降り積もった。

 一人の幼い少女が、ある桜の木の前に立ち、涙をこぼしてつぶやいた。
「かわいそうに。そんなに頑張らなくてもいいのよ」

 次の瞬間、その桜の木は、すべての花を地面に落とした。それに呼応するかのように、日本中の桜の木が一斉に花を落とした。

 その春、桜は花を咲かせなかった。
 次の春も。また次の春も。
 日本中の桜が、花を咲かすことを忘れたかのようだった。

 少女が二十歳を迎えた春、すべての桜は一斉に開花した。
ファンタジー
公開:26/04/01 16:50

ナラネコ

老後の楽しみに、短いものを時々書いています。

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