第5話 到達者記録

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魔王城の最奥は、
思っていたより静かだった。

玉座の間にあるのは
折れた槍でも血でもなく、
壁沿いに並ぶ細い帳面だった。

若者が一冊開く。
そこにあるのは名簿ではない。

名。
影。
声。
夢。
色。

奪われたものだけが
古い字で順に記されていた。
誰のものだったかは書かれていない。

若者の指が、
開いた頁の端で止まった。

従行補助員は
はじめて帳面へ手を伸ばしかけ、
すぐ引っ込めた。
「到達者記録です」

帳面をめくるたび、
紙の重みだけが指先に残り、
その音はすぐ
広い石間に飲み込まれた。

玉座の裏には、
王都の保管庫で見たものと
同じ封緘印。

最後の頁だけ、
まだ空いている。

補助員が低く言った。
「空欄は、戻るためではなく、
 埋まるためにあります」
ファンタジー
公開:26/04/13 20:00
更新:26/04/05 21:35
#名奪い連作

問い屋

問いを描くショートショートを書いています。
 
その違和感を、
まだ持ったままの人へ。
 
問いの続きを、ここにまとめています。

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