第4話 旧名保管庫

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王都の北端、
鐘楼の影に
旧名保管庫はある。

名を奪われた者へ、
いつか元の名を返すための庫だと
若者は聞かされていた。

石棚には
封じ札の束が眠っていた。
表にあるのは日付と
欠損区分だけ。
肝心の原名はどこにもない。

「名札は、ないんですか」
若者が問うと、
書庫番は首を振った。
「返る時は返る。
 ここにあるのは手続きだけだよ」

若者が札束の端に触れる。
紙は乾いて反り、
石棚の冷たさだけが
指先に残った。

閲覧帳には
帰還者の欄が続いていた。
討伐完了。
先行任務終了。
継続配置。
そのどれにも
返還済の印はほとんどない。

最下段だけ、
赤線で引かれていた。

――返還請求は受理する。
――ただし継続資格を優先する。
ファンタジー
公開:26/04/11 21:00
更新:26/04/05 21:27
#名奪い連作

問い屋

問いを描くショートショートを書いています。
 
その違和感を、
まだ持ったままの人へ。
 
問いの続きを、ここにまとめています。

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