第2話 仮名宿

0
1

南門近くには、
名を失った旅人だけを泊める
呼名宿がある。

帳場の箱には
木札が並んでいた。
灰介。
星七。
無銘一号。

女将は箱を押しやった。
若者は、
角の丸くなった札を取る。
指先に、
古いぬめりが薄く残った。

「みんな、戻しに来るんですか」

女将は鍵を渡した。
「戻す人もいるさ。
 でもね、減るのは
 返す札より、空く部屋の方だよ」

部屋の机には
前の客の傷があった。
短い線が三本。
乾いた木の匂いの奥に、
古い油のにおいが残っている。
その下に、
読めない名の跡。

寝台札の裏に、
小さな但し書き。

――原名未了者には、
――滞在呼称を仮付与する。
ファンタジー
公開:26/04/07 20:00
更新:26/04/05 21:19
#名奪い連作

問い屋

問いを描くショートショートを書いています。
 
その違和感を、
まだ持ったままの人へ。
 
問いの続きを、ここにまとめています。

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容