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南門近くには、
名を失った旅人だけを泊める
呼名宿がある。
帳場の箱には
木札が並んでいた。
灰介。
星七。
無銘一号。
女将は箱を押しやった。
若者は、
角の丸くなった札を取る。
指先に、
古いぬめりが薄く残った。
「みんな、戻しに来るんですか」
女将は鍵を渡した。
「戻す人もいるさ。
でもね、減るのは
返す札より、空く部屋の方だよ」
部屋の机には
前の客の傷があった。
短い線が三本。
乾いた木の匂いの奥に、
古い油のにおいが残っている。
その下に、
読めない名の跡。
寝台札の裏に、
小さな但し書き。
――原名未了者には、
――滞在呼称を仮付与する。
名を失った旅人だけを泊める
呼名宿がある。
帳場の箱には
木札が並んでいた。
灰介。
星七。
無銘一号。
女将は箱を押しやった。
若者は、
角の丸くなった札を取る。
指先に、
古いぬめりが薄く残った。
「みんな、戻しに来るんですか」
女将は鍵を渡した。
「戻す人もいるさ。
でもね、減るのは
返す札より、空く部屋の方だよ」
部屋の机には
前の客の傷があった。
短い線が三本。
乾いた木の匂いの奥に、
古い油のにおいが残っている。
その下に、
読めない名の跡。
寝台札の裏に、
小さな但し書き。
――原名未了者には、
――滞在呼称を仮付与する。
ファンタジー
公開:26/04/07 20:00
更新:26/04/05 21:19
更新:26/04/05 21:19
#名奪い連作
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