Working Class Hero

0
1

 夜、父がベランダから月を見ていた。「明日は仕事だな」そうつぶやいた。そして父は自分の汚い車から、汚い清掃用具を取り出して、玄関に置いた。翌日の朝、父は酒を飲んで、テレビを観て、それから、夕方、仕事に出かけていった。月をきれいにしに行ったのだ。私たちが夕飯を食べていたら、空からデッキブラシの音が聞こえてきた。母がテレビの音量を大きくした。明け方頃、父は家に帰ってきた。そして、酒を飲んで寝てしまった。私は明け方の空に浮かぶ月を見た。汚れが残っている。その汚れはウサギの形をしていた。なぜ父が汚れをわざとウサギの形に残すのか、そもそも父はどうやって月まで行っているのか。家族の誰も知らない。そしてそれを知ろうとも思わない。家族の誰も、そしてこの国に住む誰も、父にも月にも興味がないのだ。母によると、父の仕事の時給は、ここ千年、変わっていないらしい。
ファンタジー
公開:26/03/29 21:08

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容