三月のクジラ

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三月の風は、冬の重みを脱ぎ捨てようと少しだけ急ぎ足で抜けていく。

クローゼットの隅、春物のコートを出そうとした指先に違和感が。たどっていくと、青いマフラー。去年の暮れ、そのときはまだ付き合っていた彼が、私の部屋にやってきたときに忘れていったもの。

窓の外は、もう春の気配。

雨上がりのアスファルトに、空の色だけが楽しく踊る。ときおり白い雲が悠々と、黒い地面をゆく。

まるで、大きなクジラ。

ひらり

と桜の花びら。

雲と流れ、青い大空への憧れ。私もいっしょに行きたいと。風がいざなう昼さがり。

花びらと水たまりと。

そんな、生活と雨のスキマ。

―もう、寒くなんてないのに

わざとらしくつぶやいて、そっと首にあててみた。彼の匂いが、まだ残っている。そんな気がして…

ふふ、笑っちゃう。

もう、好きでもないのに。

もう、好きでもないから…












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その他
公開:26/03/24 11:18

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