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段ボールの積まれた部屋に、さびしさが響く。
旅立ちの朝は、思っていたより、ずっとあっけない。

「忘れ物ない?」

埃っぽい部屋におかあさんの声。

「うん」

窓の外には、淡い桃色のつぼみ。
今年は、この街の桜は見られないけれど、新しい街で咲く花が、きっと私を待っている。

「心配しないでも、荷物はちゃんと送っておくから」

「うん」

短く応じながら靴ひもを結ぶ。
結びがわずかにそっぽ向いちゃっても、直さずそのまま歩き出す。
本物の蝶が止まってくれてもいいけどね、なんて思いながら。

ドアを開け、一歩を踏み出す。
見慣れた景色が、見慣れているはずなのに…

何かが動き出す気配。

世界が、やけに眩しい。












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青春
公開:26/03/22 10:21

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